幹の会と株式会社リリックによるプロデュース公演の輝跡

「平さんの想い出」

 
 

 2022年10月22日、あまりにもあっけなく平さんが我々の前から姿を消して丸6年、七回忌を迎えます。

 

 このH.Pでは、生前の平さんの幅広く、奥の深い活動を、今後の若い方々へお知らせし、「演劇」のすばらしさを伝え、残したいとの目標があります。
 
 そこで、読者の皆さんの「平さんの想い出」を募集しております。
 
 文章の長さ、形式は自由ですので、皆さんの『想い』をメールにてお寄せください。
「タイトル」とお名前、肩書き等もご記載ください。
 

(送付先)
LinkIconlyric_co@yahoo.co.jp 株式会社リリック

なお、HP運営側で、文章を修正させていただく場合がございますので、ご了解ください。
 

2022年10月22日

平幹二朗 様
前略ごめんくださいませ

土谷治子

 
 平さん、平さん、平さんは、そちらでもコツコツと鍛錬を積み重ねていらっしゃるのでしょうか。。。
 今、ふと思い出した、私には宝物のような記憶の中の目と声のこと、書かせていただきます。もしもお暇な時がおありでしたら、お読み下さいませ。
 
『王女メディア~一世一代ふたたび~』をなさるとわかり、平さんにお手紙を書いたことがありました。「女としての一体験談です。たくさんのご観察やご思考をなさっているとは思いますが、恥ずかしながら、女性のお役作りのご資料になれば幸いです」のような感じで。私と元夫との、喧嘩の時の自分の顔や声のことや、流産の時に感じた身体の感覚の変化や気持ちの動き、どんな仕草でどんな声が出たか、など、普通の男ならドン引きするようなことですが、平さんには資料になるかもしれないと思い、書いてしまいました。
 メディアの「一度お産をするくらいなら、三度 戦(いくさ)に出たほうが、はるかにましというものです」という台詞の場面でしたでしょうか、こともあろうに、私、そこでメディアがお腹を摩る(さする)時の手の位置についての意見までも書いてしまいました。
 お返事の絵葉書が、その手紙についてはいただけぬまま時が過ぎ、日に日に後悔が募りました。余計な手紙を書いてしまったものだ、と悔やみました。
 平さんから公演チケットが届き、最高な最前列の真ん中の席を割り振っていただけて、一旦はホッといたしました。が、プロの大俳優さんに向かって演技について意見などいたしましたことは、後悔の尾を引きずり続け、観劇当日もドキドキクヨクヨしていました。
 いよいよその台詞の場面となりました。その時のお姿と動きをよく覚えています。メディアが舞台の客席近くギリギリまで出ていらっしゃいました。横中央よりも1メートルほど下手(しもて)に立たれました。直後、斜め下を向いて視線をカッと睨むように客席に下ろし、その台詞を仰ったのです。視線の先は私。双子を孕んだ重い下腹部に低めに丸く手を当てる仕草で。「まさか私に言っているのか?」と思うも何も、その眼光と目力とお声に圧倒されて身体が固まりました。その台詞の終わりに、メディアに向かって大きく2回ほどウンウンと頷いたのは覚えています。冷や汗が出ました。
 その後も同公演を何度か観に行きました。2回目以降の観劇では、同じ場面での立ち位置が違い、視線も違っていました。やはり、あの私のメディア生観劇1回目は、私を睨んで台詞を仰ったのだとしか思えなくなりました。
 後々、プロデュースの秋山さんから、幹の会の席振りチケット封入は平さんがいつもご自身でなさっていたということを伺いました。私の席と行く日にちを平さんはご存知だったことがわかりました。ぅわぁ~。。。あのメディアの迫力。近かったし。大きかったし。今も目に焼き付き、耳に焼きついて、発光します。
 その後、平さん主演の別のお舞台の中頃、また、その舞台の感動を長々とお手紙したら「嬉しい感想ありがとう」と絵葉書をくださったので、やっと、やっと、やっと、本当にホッとしました。あのメディアの目は「余計なことを書いてきやがって」と私を睨んだんじゃなくて「手紙に書いたことを受け取ったよ」という目だったのかもしれない、と思うようになりました。
 人は、半世紀ほど生きると誰でもいろいろな出来事をくぐり、なんだかだと傷ついたりもします。でも「嬉しい感想」と書いていただいた喜び以降、これはとても不思議な感じなのですが、私に個人的にあった人生の心の傷のようなわだかまりが不思議と消えて、逆に良い思い出のようなものに変質いたしました。あの2016年の王女メディアの平さんのテーマであった「赦し」が、あの公演が終わってからも、私の人生にじわじわと効いてくるのを実感しました。平さんのご達筆な、あと、住所の数字の区切りがハイフンでなくてピリオドな絵葉書とチケットの封筒は、ずっと宝物でお守りで、それを引き出しから取り出して見る度に、広い気持ちになれます。
 この流れの全てが私の頭の中の思い込みかもしれません。勇気を出して楽屋をお訪ねして尋ねてみたらよかったなぁ、という後悔は残っております。でも、思い込んでいて幸せ、どうか、どうか、この、アホなファンに、このまま妄想させていてくださいませ。「きっとあの台詞は、きっと私に言ってたんだわぁ~」と!
 
 お忙しいところ、長々と申し訳ございません、ご笑納を。
 あの世に追いついたら、平さんの楽屋に絶対にご挨拶に行きたい!そしてまた、次のお舞台を観たいです!楽しみに首を長くして待っています!
 
 お身体も、くれぐれもお大切に、と祈っております。
 読んでいただき、ありがとうございました。
 
かしこ
 
土谷治子
 
 
 


 

「平さんの『王女メディア』を観て感じたこと」

 

北白 明子(きたしろ あきこ)

 
両親が2012年の王女メディアを観て,感動して帰って来たのを今でも覚えています。
2年程前に働きながら演技を習い始めたのですが,教室の先生も平さんの演技は素晴らしかったと話されており,丁度レッスンでもメディアの台本を読んでいたところ,どうしても観てみたくなりDVDを買い求めました。
平さんの演技をきちんと観るのは初めて。メディアという人物は私にとって難解で,色々な読み方を試していた時だったのでわくわくしながら観始めました。
平さんのメディアも,土地の女や夫とのやりとりも,衣装も音も光も舞台空間も,どれも素晴らしくて引き込まれるように観ました。
 平さんのメディアは本当に魅力的。2012年時点で78歳の男性が演じているのに,時には私より年下の小悪魔美女にも見えます。不思議ですが本当にそう感じます。メディアってこんなに表情豊かでチャーミングな人だったのか,と思いました。
そして感情が高ぶり怒りを露わにするシーンは,一変して身体の内側に充満したエネルギーが一気に放出されたような迫力。そのエネルギーには男性ならではの強さを感じる一方,メディアの気高さや美しさと矛盾がなく,終始魔法にかけられたような気分で観ていました。
  生で観劇した母は「普通に話しているのに,あんなに感動したので驚いた」と度々言っていましたが,DVDを観て改めて考えたところ,この「普通に」というのは,おそらく「自然に」「違和感なく」という意味合いが強いのではないかと思いました。
平さんの演じるメディアからは女性らしい魅力を感じる一方,確かに母の言うとおり,台詞を普通に読んでいるように,つまり殊更女性らしく読もうとしてはいないように聞こえます。でも怒りを露わにする時の太い声と対比させると,やはり何となく女性らしい話し方に寄せているようにも思えて,でも違和感はなくて,実際のところ平さんはどんな演技の工夫をされていたのか,許されるものならインタビューしてみたかったです。
演技を習い始めたばかりで,経験も考えも浅い私が感じたままを,感想として書かせて頂きました。
最後に,2012年の公演のパンフレットも素晴らしかったです。
中でも冒頭の平さんの書かれた文章。あの平さんがあの王女メディアを78歳で演じる時に一体何を語るのか,重々しい内容を想像していたのですが,思いがけず明るく前向きなエネルギーに満ちた文章で,何だか胸が一杯になりました。平さんにとってメディアは、「ただ生きて演じている」活力を味わえる,きっと大好きで忘れられない役だったのだと分かった時,78歳と82歳でまたメディアをやれた平さんも,そしてそんな気持ちで演じた平さんのメディアを観ることができる私達も,とても幸せだと思いました。      
               (了)