幹の会と株式会社リリックによるプロデュース公演の輝跡

「平さんとの思い出」

前田美波里

 
 
 平さんとは、ご自身が演出、主演を務められたシェイクスピア作品「冬物語」で妻のハーマイオニー役として二年近くご一緒させていただきました。公演で全国を巡業しながら一人の人間としての生き方、役者を長く続けていくための術など本当にたくさんのことを教わりました。
 
 美味しいお食事とお酒が大好きな方で、地方公演の際に地元の美味しそうなお店に入るとそこでよくご一緒になったものでした。
 温泉もお好きで、私も大好きなので公演後に車で連れて行っていただきました。
 もちろん、一緒には入れないので、入り口で、「じゃあね。ぼくはこれと一緒にゆっくりしていくから」と袖からワインの小瓶をちらっとのぞかせて、茶目っ気たっぷりに笑って手を振ってわかれました。
 そんなかわいらしい面もお持ちでしたね。
 
 芝居にはとても厳しく、しばらく公演が続くとある日突然芝居が変わり、舞台上でとまどうこともありました。
 形だけの慣れの芝居を嫌う彼のやり方だったようです。
 シェイクスピアの作品は本当に難しく、なかなか芝居を褒めていただくことがなかったのですが、5か月の公演の千秋楽の際に、いつもはカーテンコールに国王と王妃として上手と下手から登場し、それぞれお辞儀をした後、また左右に別れてはけていく演出のところをお辞儀のあと、肩をぐっと抱き寄せて下さり、そのまま一緒に舞台袖に向かってくださったのです。
 ああ、ようやく認めてくださったのだなと感じられて本当にうれしかったです。
 
 ぜひまた再演をしてほしいとお伝えしましたが、
 「この作品はもうやりません。ワインと一緒ですよ。熟成され本当に美味しい時に飲み干すのがいいのです。舞台も引き際が大事。
まだ余韻の残る時に辞めるのがいいんですよ。また別の作品でご一緒しましょう」と言っていただきました。
 
 一つの作品が終わるとセットや衣装はすべて壊されていたそうです。
 そうしないとその役をまだやりたいという未練が残るのだと。
 演じたい作品がまだまだ山のようにあるからその為には常に前に進んでいかなければと強くおっしゃっていました。
 
 舞台に対するそして生き方に対する平さんの美学を感じました。その教えは私の一生の宝物です。
 
 もう一度ご一緒に舞台に立ちたかったです。