幹の会と株式会社リリックによるプロデュース公演の輝跡

「幸運」

斉藤祐一

 
 平さんがこの世を去ってからぼうっとしてしまいます。
 「胸にぽっかり穴が開いた様な」、そんな気分です。
 
 最後の舞台になった『クレシダ』の平さんの姿を考えると、あの平さんがもういなくなってしまった事が不思議で不思議で、「何でだろう」「何なんだろう」ってまたぼうっとします。
 
 平さんとは2012年、2015年、2016年の幹の会『王女メディア』で、全197ステージをご一緒させて頂きました。
稽古、本番、そして長いツアーの共同生活的な部分も通して、色々な平さんがいました。
 
 常に芝居の事を考えておられ、本番も何が急に出て来るか分からないぐらいいつも新しい表現に挑戦していました(その分、共演者たちはヒヤヒヤものでした!)。
 
 メイクを落とした平さんは、お洒落な出で立ちでスマホを操り、美味しいお店を探して僕たちを食事に連れて行ってくれ、移動ではその土地のデパ地下、駅ナカの紙袋をぶら下げて列車やタクシーに乗り込んでいました。
 
 そしてひょんな事から本番の前後に僕の自己流マッサージを平さんにする事になり、仰向けや体を起こした時の平さんとおしゃべりする様になりました。
その日の芝居の事、出演された映画、ドラマの話、疎開していた頃の事、俳優座、浅利さん、蜷川さんの事、次にする仕事の事を話してくれ、セリフを言う時の呼吸については自分のおなかを出して見せながら教えてくださった事もありました。
 
 最初のツアーの最終日、僕が平さんと同じ誕生日であることを伝えたら、「あ、そう。さそり座だけど後ろの方だからいて座の影響を受けるんだよね」と答えてくれました。
マッサージ終わりに、いつもあの声で「ありがとう」って言ってくださいました。
 
 運勢っていうものはよく分かりませんが、僕が平さんと出会えた事は幸運だと思います。
まだぽっかり穴は開いていても、たくさんのものがあります。
もらいました。
いつかまた共演したかったです、本当に。
 
 平さん、ありがとうございました。