幹の会と株式会社リリックによるプロデュース公演の輝跡

2012『王女メディア』
 

「悪友 平 幹二朗 様」 

城全能成

 
平さん、ご無沙汰しています。

平さんが旅立たれて数ヶ月経ちましたが、
私はまだあなたが旅立った事が信じられないでいます。

私は普段、主なやり取りはLINEなどのSNSを利用しています。
SNS系の着信とメール着信を音で区別しているのですが、
平さんはいつもメールで近況を知らせてくれましたね。
私にメールを寄越すのは母と平さんぐらいのものなので
滅多に鳴らないメールの着信が鳴ると、(平さん・母ちゃん)どっちだ?
と思いメールを開いたものです。
今もメール着信が鳴ると、平さんじゃないかと一瞬過ります。


私と平さんの出会いは2005年幹の会+リリック『冬物語』でした。
演劇界の大御所といった漠然としたイメージしか抱いていませんでしたが、
実際に一緒の舞台に立たせて頂くことであなたのスケールの大きさに驚愕し、
私はひそかにあなたの事を『演劇界のモンスター』と名付けます。

その後少し時間をおいて再会は2009年スタートの幹の会+リリック『冬のライオン』。
この作品をきっかけに私と平さんは『悪友』の契りを交わしました。
新たな仲間で新たな作品づくり。で、毎日稽古場には演劇界のモンスターが居る。
それはそれは張り切りました。

無事幕も開き、あるツアー先での公演終了後、男性出演陣に話があると
平さんから集合をかけられました。
「今日こそ叱られる。今晩こそコテンパンにされる。」
一緒に参加していた同じ劇団のHさんに
『え?なんの話です?何故みんな集合?』
とHさんに聞いても仕方ないのに戦々恐々と何度も聞いたのを覚えています。

平さんは叱ったり、コテンパンにしたりはしませんでした。
話の内容は集合した男性陣それぞれへの細かなアドバイスでした。
一緒に舞台上に立ちながら「そんなところまで見てたのか?!」
平さんの見通す眼に驚きながらもこのモンスターと毎日真剣勝負が出来ることを本当に幸せだと感じました。

九州ツアーが始まる小倉で、
あなたは私にパソコンを教えてくれと言ってきました。
「次の作品のセリフを覚えるのに、脳に新たな刺激を与えながら覚える方が良い、それにはパソコンが良いと思っているんだ。」
それがあなたの理由でした。
なんて努力家な怪物なんだ、と感動したのを覚えています。

二人でノートパソコンを購入し、毎朝パソコンを教えさせて頂きました。
時間が来たら劇場へ出発して、本番をやって、宿に帰って来たら
廣田さんを交えてワイン飲みながらダメ出しされて(頂き)、
ごちそうさまです。おやすみなさい。
そう言って明朝には、またパソコン開いて勉強、勉強、勉強。
『ほぉ君は頭がいいですねぇ』『今朝は機嫌が悪いんですか?』
そうパソコンに語りかけながら毎朝勉強している怪物…いやいや、
平さんを本当に尊敬していました。

そのうち勉強が進むと、パソコンの時間は昨夜の会食の良かった点・改善点を言いあう時間になりました。
よし!改善点を生かして今夜の飯は何にしよう?
平さんは教えたパソコンを上手に使って店の下調べをするまでになりました。
なので、他のツアーより会食が多かったように思います。
ピクニックにも行きましたよね。なんて穏やかな時間だったでしょうか!

共演者の皆さん、スタッフの皆さんと何回も懇親会が出来ました。
『懇親会はどう振る舞えばいいかわからないから得意じゃないんだよ。
だからあんまり懇親会はやらないんだ。』
そう言っていたあなたを口説いたのはたしかに私だったかもしれませんが
口説いたと言うより…平さん自身が懇親会やりたくてウズウズしてましたよね?
だってパソコンで懇親会向きの店を内緒でリサーチしてましたから。
ボーリングもやったし、カラオケもみんなで行きました。
それだけあのツアーを楽しんでいたんですね。

この期間中、ありがたいことに私とあなたはいろんな話をします。
それぞれの生い立ちや成長過程での話、
芝居の話、演劇界の話、劇団の話、芸能界の話、
恋愛の話、結婚の話、子供の話、…本当に色々話し続けました。
ここでは細かくは話さない事にします。もったいないので私だけの話にします。
全てが金言でしたから。

でも、その中から一つだけ。
常々平さんは私に『孤独になれ』と言いましたね。
『人間は孤独だ、役者も孤独だ、孤独が城全を成長させる。
だから孤独になれ。』
そう何度も言われました。


…ここから、文章が進まなくなりました。
メディアの事も書こうと思ってたんです、
私が役者を廃業した後のエピソードも用意していたのです、
…でも進まなくなりました。

平さん、
平さんは孤独でしたか?
沢山の仲間と沢山の作品を生み出し、残しました。
大勢のお客さんがそれを観て感動した事でしょう。
平さん、それでも孤独でしたか?

平さんがこの世を去ってしまい、
私はあなたからとてつもなく大きな宿題をもらった気がしています。

尻切れのお手紙になってしまいましたけど
また気持ちを整理して平さんに手紙書きますね。

私の悪友
平 幹二朗 様、
ありがとうございます。
またいつか、昼間からおいしいお酒を飲みましょうね。