幹の会と株式会社リリックによるプロデュース公演の輝跡

「瞬間の華」

後藤加代

 平さんとの初めての仕事で北海道に公演中、舞台降板という失態をおかしました。
稽古中、肋骨2本を折り、痛み止めの薬害で胃に穴をあけたからです。
ほんとうにショックで、もうニ度とご縁は無いと思ったのですが、そんな私を長く読んで頂き、感謝の一言に尽きます。
 
 芝居に向かう姿勢は誰もが尊敬するところです。
本読み初日は全員ピリピリ。
休憩時、「もうセリフが入っているようだな」と言われ、「いえいえ、そんなこと~」と答えましたが、本当はその通り。
でもご本人もほぼセリフを入れてらっしゃるのに、おかしいですネ。
 平さんの眼差しは多種多様。
その時々に受けた言葉に励まされ、癒され、また落ち込むことも。
 
膝を痛め、公演先でも整形外科を渡り歩いていた時、メイク途中の姿で女性楽屋に現れ、「○○の場面をカットする」のいきなりの言葉に、私は何かヘマをしたかとドキッとしたのですが、私の足の負担軽減の為でした。
 
申し訳なさでいっぱいでした。
そのカットした芝居の再演時は、車いすを用意して下さったのです。
 
 嫌な目にあった時は、すれ違いざまに「あのトキは、アタマに来ただろ」とさりげなく。
そういう滑稽な面も。
稽古時、伏した床から立ち上がるのに膝に力が入らず、とっさに側にあった(?)平さんの足につかまって立ったことが。
共演者に「あんた、何につかまってんのヨ!」同じ場になると、平さんが足をもぞもぞと出してくるのです。
「つかまれ つかまれ」と言わんばかりに。
今でもこれは笑えます。
私の大腸癌には「我らと同じ癌仲間になったねぇ」とホットなメッセージも。
その後、膝悪化に芝居を断念しようと決心した時の「まだ芝居をやめてはダメだよ」の言葉は真にありがたいことでした。
秋田の玉川温泉に癌治療に行った折、「ここが平幹二朗が座っていた場所だよ」と話し声。
随分前のことなのに、いまだに語り継がれているんだと感心。
平幹二朗癌治療伝説です。
 
 平さんから引き取ったルドヴィック(猫)は、ガンコじいちゃんでしたが、甘えん坊になって、20年という寿命を全うしました。
亡くなる迄のいきさつを手紙で報告、涙したと聞かされました。
その前年のいわき公演時、ルドヴィックとの再会を果たしたことは幸いでした。
 
 稽古場での平さんの演技に鳥肌が立ったことも忘れられません。
 「上手いだけではダメなんだよ」のダメ出しは心に深く残り、どうすれば良いのかと悩んだ日々も懐かしく思われます。
 
 舞台は瞬間芸術、毎回同じ演技が出来るはずもなく、少しずつ変化してこそ生きている証です。
これまで平さんは数々の素晴らしい瞬間の華を咲かせてこられました。
ちなみに色紙に書いて頂いた言葉、「芝居は人生の華」。
 
 こよなく舞台を愛した平さんの“瞬間の華”にブラボー!!